化石を発掘する!
化石は、その美しさや面白い形から人々を魅了するだけでなく、太古の生物や環境を知ることができます。
このコラムでは化石とは何か?化石の種類にはじまり、化石のでき方や採取できる場所、発掘について簡単にお話し致します。
もくじ
化石とは?
地質時代に生息していた生物の遺体、もしくはその活動の痕跡が化石として扱われます。
どれだけ古いものから化石と言えるかは、実は明確な定義はありませんが、一般的には1万年より古いものを化石として扱われることが多いです。
また、一般的には貝塚等から出土する貝殻や、動物の骨など人の手が加わったものは、化石としては通常扱われずに、ただ単に「遺体」「遺存体」と言って化石とは区別されます。
化石の役割には主に3つあります。
生物進化や過去の生物について知る
こちらの方は皆さんが想像しやすく、「過去の地球にどのような生物がいたか」
「どのような生活をしていたのか」「どのような進化を遂げたのか」などは、化石によって分かります。
たとえばカンブリア紀には、アノマノカリスやオパビニアのような、現在では見られないような生物がいたことは化石でしかわかりません。
また、鳥類は小型の肉食恐竜の仲間から進化したことは、化石を研究することで明らかになってきました。
化石を使って地層の年代を知る
こちらは、中学校の理科で習ったと思います。
地層中から三葉虫が出てくれば古生代、ヌンムリテス(貨幣石)が産出すれば新生代といった具合に、化石は地層の年代を知る手がかりとしても使われます。
このように地層の年代を教えてくれる化石を、示準化石といいます。逆に、地質年代は示準化石によって定義づけられることもあります。
なお、この年代の定義は研究の進展によって更新されることがあります。
化石から地層の堆積環境を知る
こちらもイメージはしやすいかと思います。
地層中からアサリの化石が産出すると浅海、シジミが産出すると汽水域といったように、地層が堆積した場所を推定する際に化石が用いられます。
このように堆積した環境を示す化石を、示相化石といいます。
興味深い例だと、約1,600万年前の岩手県の地層から暖かい地域に生息するマングローブの花粉化石が見つかっています。
このことから現在は寒いイメージがある岩手県ですが、約1,600万年前は沖縄のような温かい環境だったのではないかと推定されています。
化石の種類
化石の種類は主に以下の3つがあります。
体化石
動物の遺体そのものの化石で、一般的な化石はこれにあたります。例えば骨や歯、貝殻などが挙げられます。
印象化石
生物の遺体そのものの化石ではなく、地層中に本体が溶けて消失し、地層中に型として保存されることがあります。
これも立派な化石で、観察の際には樹脂を流し込んでその型を調べます。
生痕化石
生物本体の化石ではなく、フンや巣穴、足跡など、生物によって形成された構造物の化石です。
体化石だけからでは分からないような生物の行動が記録されているので、当時の環境や生態を推定するうえでも重要です。
化石のでき方
これはケースバイケースですので一概には言えません。
よく図鑑などで記述される例を見ると、生物の遺骸(特に骨や硬いから、植物など)が堆積物に埋もれます。
そして、それが長い年月をかけて、温度と圧力の影響を受けながら、堆積物の中の成分が遺骸にしみこんでいきます。
やがて石の成分と置き換わって、私たちがよく知るような化石になると考えられています。
そのほか、炭酸塩コンクリ―ションと呼ばれるセメント状の石の塊から3次元的な化石が含まれることがあり、北海道のアンモナイトや富山県のツノガイ化石などが有名です。
この場合、化石にもよりますが、たとえばツノガイ化石のケースだと数週間?数か月と短期間に炭酸塩コンクリ―ションが形成されたと考えられています。
地層と化石
一般的に、生物の死後速やかに埋没することが、保存状態の良い化石の形成条件となります。
レバノンの白亜紀の地層などでは、サメやエイの全身骨格の化石や、魚類や甲殻類などの化石が押し花のように鮮明に保存されているケースもあります。
この場合は、遺体が埋没した環境が貧(無)酸素状態であると遺体が分解される前に、細粒な石灰質な泥に埋もれるため、保存状態の良い化石が残りやすいものと考えられています。
※サメやエイの全身骨格の化石は、体の骨格の大部分が軟骨でできているため、通常は歯や骨化した椎体しか保存されません。
また、死後に河川などの水流の働きによって運搬されて、もともといた生息場所から離れたところで地層中に埋没するケースも多いです。
そのため、化石が見つかったとしても、もともとの生き物がその場所にいたとは限らないケースも多いです。
たとえば、北海道や兵庫県の白亜紀の海で堆積した地層中から、陸生生物である恐竜の化石の産出が報告されています。
これは、もともと陸に生息していた恐竜の遺体が河川など何らかの水の流れによって海まで運ばれ、その後、海底に埋没したことを示します。
地層に埋没されたあと、温度や圧力による続成作用を受け、もともとの成分が変わっていきます。
この続成作用があまりにも強いと含まれている化石が消失したり、変形することもありますので、堆積後の温度?圧力条件も化石の保存に関わってきます。
なお、古生物学の分野の中に、生物の死後から化石になるまでの過程を研究する分野があります。
この研究分野をタフォノミーと言いますが、化石化作用だけでなく、生物の生息時の生態を復元するうえでも重要な分野となっています。
化石の発掘
発掘の方法は、目的や場所によって異なるので一概には言えませんが、一般的に化石を採取する場合は、目的の化石が出てくる地層や場所を先行研究などで調べることが大事です。
現場についたら、まずは地層を観察します。化石が顔を出していることがありますので、どのような姿勢で入っているかを推定します。
その後、必要があれば後述するような道具を使って取り出しますが、足跡など持ち帰れない場合は3Dスキャナで計測するケースもあります
道具については、採取する場所や化石によって使う道具は千差万別です。
まず、掘り出す道具ですが、オーソドックスな道具だとタガネ、岩石ハンマーを用います。
大きく掘り出したいときには、ツルハシやバールなども使います。
規模が大きな調査の場合は、削岩機も使用したり、ショベルカーなども登場してきます。
その一方で、地層が柔らかい場所だとバチズルやマイナスドライバー一本でも十分なこともあり、地層がぐずぐずになって細かい場合には篩を使ったりもします。
海岸で打ちあがっている化石を採取したい場合には、落ちている竹の棒一本でも立派な道具になります。
また、掘り出す道具以外にも化石がもろい場合もあるので、その場で接着剤やパラロイドと呼ばれる樹脂、石膏などで固めることも大事な作業です。
発掘する際の道具は市販されているもののほか、自作することもあり、状況に応じて使い分けます。
余談ですが、実際に露頭へ赴き現場に行く発掘作業もあれば、博物館の収蔵庫で未報告の化石を見つけることもあります。
全国の各地域に自然史博物館があり、その収蔵庫の中には寄贈や調査などで得られた標本が保管されています。
当時はよくわからない化石でも、のちに専門家の標本調査によって実は希少な化石であったり世界的に重要な化石であったというケースも多々あります。
そのため、化石の研究者は野外だけでなく博物館も“発掘”するフィールドとして極めて重要です。
例えば、60年以上前に北海道で採取された化石が博物館の収蔵庫で発見され、調査研究の結果、大変希少な魚類化石の標本であったということがありました。
化石が見つかる場所
化石が入っている地層で、かつ人が立ち入ることができる場所であれば、どこでも見つかります。
たとえば、多摩川河床にも約140?150万年前くらいの地層が広がっていて、化石が採れる場所もあります。
そのほか、少し特殊なケースとしてラーガー?シュテッテン(いわゆる化石鉱脈)があります。
化石が大量に含まれていたり、例外的に状態の良い化石を得ることができます。
たとえば、中国の遼寧省の白亜紀の地層です。
きめ細かい火山灰層の中から通常では保存されないような羽毛や、軟組織まで保存されている恐竜が産出することで非常に有名です。
まとめ|化石を通じて見る地球の歴史
化石は、採取したり、観察、研究するだけでもかなり魅力的な天然の宝物です。
それだけでなく、太古の地球の生物や環境を教えてくれる、いわば地球からのメッセージといっても過言ではないかと思います。
未来のことは分かりません。
ただ、過去の地球の生物を知ることは、環境が変動した際に、生物がどのような影響を受けるかといったような点を予測する際の材料になる可能性があります。
つまり、過去の地球や生物を知ることは、未来の地球を予測する材料になるものと考えます。
また、福井県や北海道むかわ町、岩手県久慈市などのように化石(特に恐竜)を使った町おこしも取り組まれており、地域振興にとっても重要です。
なお、本学東京紀尾井町キャンパス3号棟には大石化石ギャラリーが併設されており、保存状態の良い魚類化石が多く展示されています。
学芸員(筆者)が在籍している際には、気軽に質問なども受け付けています。
ちなみに入場無料です。ぜひ美しい化石をご覧に来てくださると幸いです。
◆城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリーのサイトはこちら◆
また、遠方でなかなか化石ギャラリーに来られない方も、地元の博物館を訪れてみても面白いかと思います。
さらに近場で採取場所があれば、足蹴なく通ってみると思わぬ大発見がある………かもしれません。
※もし貴重な化石が見つかったら、地元の博物館等にご一報をお願いします。
参考文献
Yoshida, H., Yamamoto, K., Minami, M., Katsuta, N., Shirono, S. and Metcalfe, R.,
2018. Generalized conditions of spherical carbonate concretion formation around decaying organic matter in early diagenesis. Scientific Reports, 8, 6308, doi:
10.1038/s41598-018-24205-5.
泉 賢太郎.2023. 化石のきほん.誠文堂新光社,東京,144p
Miyata, S., Yabumoto, Y., Nakajima, Y., Ito, Y., and Sasaki, T., 2022. A second specimen of the crossognathiform fish Apsopelix miyazakii from the Cretaceous Yezo Group of Mikasa area, central Hokkaido, Japan. Paleontological Research, 26(2), 213-223.
山野井徹?齋藤喜和子?松原尚志?小守一男., 2010. 岩手県二戸地域の門ノ沢層 (中部中新統) からマングローブ (メヒルギ属) 花粉化石の発見. 地質学雑誌, 116(2), 114-117.
宮田 真也
- 専門分野:層位?古生物学(特に魚類化石の分類学)
- 早稲??学 創造理?学研究科 地球?環境資源理?学専攻 博?課程?修了(2014年)
- 城??学 ??記念博物館??化?ギャラリー 学芸員(2016年~現在)
- 城??学 理学部化学科 助教(2022年~現在)