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Vol.7 漢方薬局のおしごと編


■始めに

あなたは漢方薬に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。味やにおいが悪い薬、すぐに効果が出ない薬、高価な薬、怪しい薬など漢方薬はそのような比較的ネガティブなイメージを持たれることが多いのではないでしょうか。
私はそんなイメージがある漢方薬を専門に取り扱う漢方薬局を経営している薬剤師です。今回は医薬品の中でもマイナーな部類に入る漢方薬を扱う薬局を起業した動機や経緯、仕事内容などについてご紹介したいと思います。

漢方薬

生薬棚

■これまでの経歴

まずは私の職歴について簡単にご紹介したいと思います。城西大学卒業後は某製薬会社に就職しMR(医薬情報担当者)として勤務した後、茨城県内にある病院へ転職をして院内の薬剤師として勤務しました。その後、漢方薬局で勉強をしたのちに漢方薬局を開業し現在に至っております。

■漢方薬との出会いと起業動機

病院に勤務した際、病院長が日本東洋医学会会員であったことが漢方薬(東洋医学)に出会うきっかけとなりました。そして、漢方薬への興味を持ち院長から漢方薬について多くのことを教わりました。
 病院では漢方薬の処方が多く、漢方薬で患者さんの症状が軽減されていく姿をよく見ていました。漢方薬の効果を身近に感じていたからこそ漢方薬に対する興味がより一層高まったのだと思います。
病院には沢山の患者さんがいるので1人の患者さんにかけられる時間は限られており、限られた時間の中で薬を決めなければなりません。特に慢性疾患の患者さんに対してはもっと沢山の時間をかければ、より適切な漢方薬を選べるのではないだろうか、もっと症状が良くなるのではないだろうかと考え始めました。そして、徐々に自分の漢方薬局を開き長年住んでいた水戸市内で地域の皆さんの役に立ちたいと想うようになりました。そのためには準備をしなければならず、起業する決意をして行動に移しました。

■漢方薬局での研修

どんなに仕事が楽しくても、やりがいがあってもそれだけでは自分の薬局を経営していくことは出来ません。漢方薬局はドラッグストア(調剤併設型を除く)と同様に処方せんを取り扱うわけではありませんので、健康保険が使えない業態となります。つまり、価格に関しては私自身が決めなければなりません。開業前に悩んだ点でもありますが、対価に見合うサービスの提供は必要不可欠です。単に漢方薬を販売するだけでは他店との差別化にはならず、インターネットで購入した方が安価に購入できる場合もあります。そのため、患者さんに付加価値を感じて頂かなければなりません。
私が考える付加価値には大きく3つあります。1つ目は従来の漢方薬局にはない店舗作りです。漢方薬は値段が高いというイメージを持たれることも多いため、気軽に立ち寄るには敷居が高いのではないかと考えました。そこで、カフェのように気軽に立ち寄れる外観を作り、店内ではリラックスできる空間を提供できるような内装を作りました。

店舗外観

店内

 2つ目は実際の価格についてですが、当店では月額制の料金体系としました。相談前にどの程度の料金がかかるのかを明確にすることで、お支払いに対する不安感を取り除きたかったからです。漢方薬は風邪などの急性期を除くと、通常は数ヶ月間の服用が必要となることが多く、継続して服用して頂くためには将来の出費についても考慮する必要があると考えたからです。決して安い金額ではありませんので金額に幅を持たせるためにコースを3つに分け、患者さんご自身が選択できるように致しました。(コースの説明については割愛させて頂きます)
 3つ目はオーダーメイド漢方です。簡単に言うと患者さん本位の調剤です。ここが一番重要なのですが、相談にいらした患者さんの症状を軽快させることが最大の目的であり必須事項です。漢方薬を選ぶためには患者さんの体の状態を把握しなければなりません。そして、体の状態は常に変化しています。体の変化に合わせて薬を変更していくことが重要と考えているので、患者さんに合った薬をその都度よく考えて選んでいきます。
 付加価値以外にも物件探しや取り扱う商品の選定、保健所への申請など様々な問題をクリアした後、なんとか開業することが出来ました。

■集客やお金の悩み

開業後、しばらくは暇な時間が続きます。薬局が認知されているわけではないので当然のことです。そこで、集客についても考える必要がありました。何もしないでただ待っているだけでは何も起こらないので、薬局のチラシやホームページの作成、SNSでの情報発信なども行いました。地域イベントへの参加やチラシの新聞折り込みなども行いました。すぐに反応があるわけではありませんが、少しずつ患者さんは増えてきています。できることを地道に重ねていくしかありません。
お金の問題もあります。誰も来なくても家賃や光熱費などの支払いは発生します。開業前の自己資金や銀行からの融資などが無いと事業継続ができませんので、独立を希望される方は資金の準備は本当にしっかりとしておく必要があります。銀行からの融資を受ける場合は事業計画書という書類を作成しなければなりませんので、経営を継続させていくためのプランだけではなく数字にも強くなっておく必要があります。

■開業後の業務

 漢方薬の種類は煎じ薬やエキス剤など複数あります。煎じ薬とは生薬をそれぞれ取り揃えて1つの袋にまとめ鍋などで煮出すお薬です。煮出した液体には生薬の有効成分が含まれており、この液体がお薬となります。例えば、有名な漢方薬に葛根湯がありますが葛根湯の中には葛根、麻黄、桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草と7種類の生薬で構成されています。葛根湯を調剤するときは7種類の生薬を棚から集めて1つの袋に詰めていきます。一方、エキス剤とは煎じ薬をドライ加工して飲みやすく、持ち運びしやすい剤形としている薬で主に病院で処方されたり、ドラッグストアで販売されたりしています。当店にも取り扱いがあります。
 煎じ薬は効果が高いのですが、煎じる手間がかかってしまいます。煎じる時間がない方もいれば、飲み易さを重視されている方もいます。誰にでも煎じ薬をお渡しすることが出来るわけではありませんので、患者さんのライフスタイルに合わせた提案をすることが大切です。せっかくのお薬も続けて飲めなければ意味がありませんからね。

煎じ薬

エキス剤

煎じ薬を調剤しているところ

漢方薬局は調剤したお薬の説明をしてお渡しするだけではありません。症状に合わせた養生法(日常生活の改善と同義)も一緒に説明します。病気や辛い症状などは偏った生活によって発生していると考えているからです。偏った身体のバランスも元に戻すことが大切なのです。その際、日々の食事や寝る時間、運動だけではなく心のケアも併せて行う必要があります。漢方では心と身体は繋がっていると考えるため、心の状態も健康でなければなりません。そのため、ご相談では1人につき30分~60分程度の時間をかけてゆっくりとお話をします。中にはお話をするだけで元気になる患者さんもおり、コミュニケーションを取ることがとても重要だと感じています。

■最後に

漢方薬局や漢方薬について何となく想像できたでしょうか。全国的に店舗数が少ないので漢方薬局へ勤務するには少しハードルは高いですが、薬剤師としてこれほどやりがいがあり、楽しい仕事は無いのではないかと感じています。この文章を読んで漢方薬に興味が沸いた学生さんはお気軽にご質問ください。いつでもお待ちしております。
(漢方薬局Rin E-mail:suzuki@kampo-rin.com)